「か強診」とは「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」のことで、2016年の診療報酬改定の際に新設された制度です。
厚生労働省より定められた施設基準を満たすことで認可を受けることができます。
認可を受けた歯科診療所の評価として、診療報酬の加算や算定頻度が増える項目があります。
かかりつけ歯科医とその役割
日本歯科医師会によると、かかりつけ歯科医とその役割は以下のとおりとされています。
「かかりつけ歯科医」とは
安心・安全な歯科医療の提供し、医療・介護に係る幅広い知識・見識を備えることによって、地域住民の生涯に亘る口腔機能の維持・向上をめざし、地域医療の一翼を担うものとしてその責任を果たすことができる歯科医師
「かかりつけ歯科医の役割」とは
患者の乳幼児期から高齢期までのライフステージに応じた継続管理や重症化予防のための適切な歯科医療の提供および保健指導を行い、口腔や全身の健康の維持増進に寄与すること
また、地域の中では、住民のために行政や関係する各団体と共に歯科健診などの保健活動等を通じ口腔保健向上の役割を担い、地域の関係機関や他職種と連携し、通院が困難な患者にさまざまな療養の場で切れ目のない在宅歯科医療や介護サービスを提供するとともに、地域包括ケアに参画することなど
※中央社会保険医療協議会総会(第504回)資料 歯科医療その2より
「か強診」の認可を受けることは、このような役割を担うことができる歯科医が常駐しているとして、厚生労働省から認められた歯科診療所ということになります。
かかりつけ歯科医が必要なわけ
定期的に歯科診療所に通院していることは、歯の喪失を防ぎ、その結果、医科医療費の高騰を防ぐことにつながると想定される研究結果があります。
・新しいう蝕の発生とフォローアップ回数の関連
フォローアップ回数が10回以上で、1回と比較して有意に新しいう蝕ができにくくなる。
・かかりつけ歯科医の有無と現在歯数の関連
65才以上の高齢者を対象とした調査において、3年以上同じ「かかりつけ歯科医」がいない者は現在歯数20本未満となるリスクが高くなっていた。
※中央社会保険医療協議会 総会(第314回)資料より抜粋 歯科医療について(その1)より
・歯の本数が多く、かみ合わせがよい人ほど年間医科医療費が少ない
20才~74才の労働者約25万人を対象にした、歯の本数・かみ合わせと医科医療費の関係を分析した研究結果をまとめた論文(日本歯科医療管理学会雑誌 第56巻第1号に掲載)によると、男性の20代~30代以外の男女の各年代で、歯の本数が多く、咬合状態が良いほど医科医療費が低くなる傾向がみられました。
このように、口腔内の健康の維持が身体全体の健康維持につながることがわかってきました。
厚生労働省も「かかりつけ歯科医」を持つことを推奨しています。
※かかりつけ歯科医をもとう 歯を健康に保つ秘訣
MI(ミニマル・インターベンション)
MIとは、ミニマル・インターベンション(Minimal Intervention)の略で、う蝕治療におけるアプローチの一つです。
2002年のFDI(国際歯科連盟)の総会でう蝕に関する以下の原則が採択されました。
1.口腔内細菌叢の変容
2.患者教育
3.エナメル質及び象牙質における非う窩性病変の再石灰化
4.う窩性病変への最小の侵襲による修復処置
5.不良修復物のリペア
口腔内細菌の除去や衛生指導とならび、再石灰化の促進も、う蝕に対する治療の原則とされています。
予防歯科の重要性
近年、小児のう蝕有病率は年々減少しています。
少子化が進むなか、う蝕有病率の低下やMIの認知により、う蝕の管理は治療よりも予防的な処置がメインになっています。
つまり
①定期的な検診による早期発見と口腔内細菌叢の除去
②衛生指導によるモチベーションや知識の向上
③フッ素塗布による再石灰化促進
などが主流であり、これには定期的な通院がかかせません。
う蝕が完治した後も、定期的にメンテナンスを受けることが必要です。
定期的なメンテナンスは、う蝕以外の歯科疾患の予防と早期発見に役立ちます。
歯周ポケットの深さは、年齢とともに高くなる傾向にあり、30代以降から歯周病のリスクが高くなります。
また、歯周病と糖尿病には相関関係があるなど、全身疾患の予防や改善にもつながります。
予防歯科への取り組みは、患者さんの健康に大きな利益があるだけではなく、歯科クリニックの経営にとっても経営の安定が期待できます。
さらに、か強診の施設基準をクリアすることができれば、その評価として加算や予防処置を保険算定できる回数が増える項目があります。
か強診と一般の歯科との診療報酬の比較
診療内容 | 加算対象 | か強診 | か強診以外 |
エナメル質初期う蝕管理加算 | 歯科疾患管理料 | +260 月1回算定可 |
フッ化物歯面塗布処置 130点算定 3月に1回 |
歯科疾患管理料長期管理加算(7か月目以降) | 歯科疾患管理料 | +120 | +100 |
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所加算 | 歯周病安定期治療 (SPT) |
+120 SPT月1回算定可 |
なし、SPT算定3月に1回 (外科後など特別な場合は 月1回算定可) |
在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料 | +75 | なし | |
小児在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料 | +75 | なし | |
歯科訪問診療移行加算 | 歯科訪問診療料Ⅰ(20分以上) | +150 | +100 |
フッ素塗布とSPTは、一般のクリニックなら3月に1回のところ、月1回算定することが可能になります。
メンテナンスを保険診療で毎月受けてもらえるようになり、患者さんにもメリットがあります。
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準
1.予防治療の算定実績(過去1年間)
①SPT・P重防の算定を30回以上
②フッ化物歯面塗布処置、エナメル質初期う蝕管理加算の算定を10回以上
2.届出
①クラウン・ブリッジ維持管理料の届出
②点数表の初診料の注1に規定する施設基準(歯初診)の届出
3.歯科訪問診療の実績(過去1年間)
歯科訪問診療1・2の算定回数・在宅療養支援歯科診療所(歯援診)に依頼した回数が5回以上
4.保険医療機関との連携の実績(過去1年間)
診療情報提供料(Ⅰ)・診療情報連携共有料の算定を5回以上
5.研修受講
①歯科疾患の継続管理に関する研修(口腔機能の管理を含むものであること)
②高齢者の心身の特性に関する研修
③緊急時対応等の適切な対応等の研修
6.人員配置
歯科医師が複数名又は歯科医師と歯科衛生士がそれぞれ1名以上配置されている
7.緊急時の連携保険医療機関の確保
診療における偶発症等緊急時に円滑な対応ができるよう、別な保険医療機関との事前の連携体制が確保されている
8.迅速な歯科訪問診療が可能な体制
歯科訪問診療を行う患者に対し、迅速に歯科訪問診療が可能な歯科医師をあらかじめ氏名するとともに、担当医・診療可能日・緊急時の注意事項等について、事前に説明の上、文書提供を行っていること。
9.地域における保険医療機関、介護・福祉施設等との連携の状況
「5」に掲げる研修を受けた歯科医師が、以下の12項目のうち3つ以上に該当すること。
ア 過去1年間に居宅療養管理指導を提供した実績があること。
イ 地域ケア会議に年1回以上出席していること。
ウ 介護認定審査会の委員の経験を有すること。
エ 在宅医療に関するサービス担当者会議や病院・介護保険施設等で実施される多職種連携に係る会議等に年1回以上出席していること。
オ 過去1年間に、栄養サポートチーム等連携加算1又は栄養サポートチーム等連携加算2を算定した実績があること。
カ 在宅医療又は介護に関する研修を受講していること。
キ 過去1年間に、退院時共同指導料1、退院前在宅療養指導管理料、在宅患者連携指導料又は在宅患者緊急時等カンファレンス料を算定した実績があること。
ク 認知症対応力向上研修等、認知症に関する研修を受講していること。
ケ 過去1年間に福祉型障害児入所施設、医療型障害児入所施設、介護老人福祉施設又は介護老人保健施設における定期的な歯科健診に協力していること。
コ 自治体が実施する事業(ケに該当するものを除く。)に協力していること。
サ 学校歯科医等に就任していること。
シ 過去1年間に、歯科診療特別対応加算又は初診時歯科診療導入加算を算定した実績があること。
10.常時設置されている装置・器具
①ユニット毎に歯科用吸引装置などによって、飛散する細かな物質を吸引できる環境の確保
②患者にとって安心で安全な歯科医療環境の提供を行うにつき十分な、以下の装置・器具を有していること
ア AED
イ パルスオキシメーター
ウ 酸素供給装置
エ 血圧計
オ 救急蘇生セット
カ 歯科用吸引装置
か強診の届出をしていない理由
厚生労働省の調査によると、か強診の届出を行う上で、難しい要件の上位は以下の通りである
①複数の歯科医師又は歯科医師及び歯科衛生士を各1名以上配備(約26%)
②過去1年間に歯科訪問診療1又は2の算定実績があること(約21%)
※診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成28年度)より
まとめ
地域の人々の健康を守る入り口として、かかりつけ歯科医の必要性は、今後ますます認知されていくと思われます。
か強診の取得は、安全対策や医療体制が整っていると認められているということで、患者さんや働くスタッフにとっても安心感につながります。
取得には、足りない要件を一つ一つ地道にクリアしていくことが必要です。
何かお困りのことがあれば、ぜひお気軽にお問合せください。